営業活動での失敗とその意外な原因

私は以前、金融関連の会社で営業をしていました。私は正直、営業の仕事が苦手でした。お客様の顔が見えない電話での営業は比較的得意でしたが、お客様と面と向かって話をする、直接の営業活動には大きな苦手意識を持っていました。ある日、私は会社の新商品のパンフレットを持って、営業地区内のお宅を次々に回っていました。金融関連の会社ですから、チャイムを押して名乗った時点で、大抵のお宅では門前払いされます。ただ、元々金融商品に興味をお持ちの方や、日ごろから私が務めていた会社によく顔を出していた方などの中には、私の話を熱心に聞いてくださる方もいて、大変な仕事ではありましたが少しやりがいも感じていました。そんな中、あるお宅の60代くらいの旦那さんから、私の話に興味はあるけれど、今だけは時間が取れないので、よければ1時間くらい後にまた来てくれないか、という相談をされました。

私はまだまだ近所を回る予定だったので、その話を了承して、一旦そのお宅を離れました。そして1時間ほど後、再びそのお宅のチャイムを鳴らすと、玄関先に男性が現れました。私はさっそくパンフレットを取り出し、商品の説明を始めたのですが、なんだか男性の反応が芳しくありません。そして、疑問に思っていた私の前に、玄関の奥からもう一人の男性が現れたのです。どうやらそれが最初の男性であり、今まで私が話していた相手は男性の息子さんだったとのこと。私はつい1時間前に会ったばかりのお客様と間違えて、何も知らない息子さんに商品説明を始めていたのです…。当時は自覚が無かったのですが、私は相貌失認、いわゆる人の顔の判別がつかない性質を持っており、面と向かった営業活動に苦手意識を持っていたのもそのためでした。その失敗以来、私はますます顔を突き合わせての営業活動に対する自信を失ってしまい、最終的には部署の異動を願い出たり、それが叶わないと分かってからは営業以外の仕事ができる会社を探し始め、別の会社に転職しました。